2008/08/02

「ハーヴェイ・ミルク」(ロバート・エプスタイン監督)

ハーヴェイ・ミルク [コレクターズ・エディション] [DVD]
ハーヴェイ・ミルク [コレクターズ・エディション] [DVD]
  • 発売元: マクザム
  • 価格: ¥ 3,877
  • 発売日: 2009/06/26


ロバート・エプスタイン監督「ハーヴェイ・ミルク」(アメリカ、1984年)を見ました。
原題は、The Times of Harvey Milk(「ハーヴェイ・ミルクの時代」)です。
アカデミー賞最優秀長編ドキュメンタリー賞を受賞しています。

アメリカで初めて、自らゲイであることを公表し、市政執行委員に当選したハーヴェイ・ミルク。
今年2008年は、彼が凶弾に倒れてから、ちょうど30年になります。
政治家としての彼の活動と、暗殺事件、そしてその裁判を通してアメリカ社会の本質を描いています。本当にすばらしいドキュメンタリー映画でした。

◇◇◇

サンフランシスコ市は、住民のおよそ4分の1がセクシュアル・マイノリティであると言われています。
1930年にアメリカのニューヨーク州で生まれたミルクは、海軍に在籍した後、ウォール街の証券アナリストなどの職に就き、60年代後半には演劇の仕事に携わるなどしていました。
70年代初頭に恋人のスコットとともにサンフランシスコに移り住み、ゲイタウンとして名高いカストロ地区でカメラ店を始めました。

このカストロ地区は、ゲイたちが居住し始める前には、アイルランド系労働者の居住地区でした。
60年代から70年代にかけてのアメリカの郊外化の動きに伴って、アイルランド系労働者たちが郊外に移り住んだのち、荒廃した地区にゲイの芸術家たちが家を借りたり、購入したりして、取り壊されようとしていたヴィクトリア朝風の建築物を改築し、メンテナンスを施したのが、ゲイの街カストロ地区の始まりです。

このようなカストロ地区を中心としたコミュニティ形成期を背景として、1973年にミルクはゲイの候補者として市政執行委員の選挙に立候補しました。
73年、75年と二度の落選を乗り越え、ミルクは77年の選挙で市政執行委員に当選しました。

映画のなかで、ミルクの生前にさまざまな場面でかかわりのあった人々が、彼を偲んで記憶や思い出を語ります。
そのエピソードから、ミルクのカリスマ性や、達成されたことの大きさ、ゲイのみならず他のマイノリティに対しても配慮を怠らなかったヒューマニストとしてのイメージが伝わってきます。
ミルクの政治家としての最大の業績は、「提案6号」というレズビアンやゲイの教師を学校から合法的に追放することを目的とした、反同性愛的な法案を廃案に追い込んだことです。

サンフランシスコでもっとも大きなイベントのひとつに、プライド・パレードがあります。
レズビアンやゲイをはじめとするセクシュアル・マイノリティのパレードで、映画のなかでも、ミルクがオープンカーに乗ってパレードを進んでいる姿を目にすることができます。
ミルクのようなコミュニティの功労者は、プライド・パレードでは「グランドマーシャル」と呼ばれ、参加者や街頭の観衆から栄誉を受ける慣わしがあります。

まさに政治家としてのミルクの絶頂期、「カムアウトしよう!」と力強く訴えるミルクの姿をパレードで目にするのは、これが最後となってしまいました。
ミルクは、同僚議員であるダン・ホワイトの手による銃で、当時のサンフランシスコ市長ジョージ・モスコーニとともに、市庁舎内で殺害されてしまったからです。


世界中のひとびとの人権が尊重され、あらゆるマイノリティに対する差別が是正されることを願ってやみません。
たくさんの人々に観てもらいたい映画です。



鑑賞日:2008年7月27日、第3回青森インターナショナルLGBTフィルムフェスティバルにて。