2008/07/27

サリンジャー「ナイン・ストーリーズ」

ナイン・ストーリーズ (新潮文庫)
ナイン・ストーリーズ (新潮文庫)
  • 発売元: 新潮社
  • 価格: ¥ 460
  • 発売日: 1986/01

サリンジャーの『ナイン・ストーリーズ』(野崎孝訳)を読了しました。
『復活』のあとに、『ナイン・ストーリーズ』を読んだので、ギャップがすっごく大きくて、1940~50年代のアメリカ文化に慣れるのにしばらく時間がかかりました。

収録作品は、「バナナフィッシュにうってつけの日」、「コネティカットのひょこひょこおじさん」、「対エスキモー戦争の前夜 」、「笑い男」、「小舟のほとりで」、「エズミに捧ぐ」、「愛らしき口もと目は緑」、「ド・ドーミエ=スミスの青の時代」、「テディ」という9つの短編です。

やっぱりサリンジャーを読むのは、夏にかぎります。
『ナイン・ストーリーズ』を読んで、モンドリアンの「ブロードウェイ・ブギウギ」(1924-43)をイメージしました。
乾いていて歯切れがよく、活気がある都会のリズム。

◇◇◇

サリンジャーは、子どもを描くのが、ほんとうに上手い作家だなぁと思いました。
「コネティカットのひょこひょこおじさん」、「小舟のほとりで」、「笑い男」、「テディ」など、すばらしいですね。
子どもたちの痛々しいまでの純粋さ、感受性の強さが生き生きと表現されています。

ラモーナはベッドのぎりぎりの端っこに寄って眠っていた。右のお尻が外にはみ出している。眼鏡はきちんと畳んで、ドナルド・ダッグの絵のついたかわいいナイト・テーブルの上に、つるを下にして置いてあった。
「ラモーナったら!」
娘ははっと息をのんで目を覚ました。そして、パッチリと目を開けたが、とたんにそれを細くしかめながら「ママ?」
「あんた、ジミー・ジメリーノは車に轢かれて死んじまったって言ったでしょ」
「なあに?」
「とぼけたってだめ。どうしてこんな端っこに寝るの?」
「だって、ミッキーが痛くすると困るんだもん」
「誰ですって?」
「ミッキーよ」ラモーナは鼻をこすりながらそう言った「ミッキー・ミケラーノ」
エロイーズは思わず悲鳴に近い甲高い声で「ベッドの真ん中でお寝みなさい。さあ、早く」
ラモーナは、すっかりおびえきって、ただエロイーズを見上げているばかりである。
(サリンジャー「コネティカットのひょこひょこおじさん」)

ところで、サリンジャーの文章は、言葉遊びがとても多いですね。
野崎訳は、名文だと思いますけれど、
この言葉遊びの多さは、訳出するのがさぞ大変だったでしょう。
苦心のあとがみられます。

「コネティカットのひょこひょこおじさん」に登場する、ジミー・ジメリーノとかミッキー・ミケリーノという名前も、言葉遊びが面白いですよね。
ゴーゴリの『外套』に出てくるアカーキイ・アカーキエヴィチみたいです。
なんて笑える名前でしょう。
ゴーゴリ作品も、言葉遊びのオンパレードですね。



読了日:2008年7月26日