- 大工よ、屋根の梁を高く上げよ/シーモア-序章 (新潮文庫)
- 発売元: 新潮社
- 価格: ¥ 580
- 発売日: 1980/08
サリンジャーの「シーモア-序章」(1963年)を読んで、"グラース・サーガ"の全体像が見えてきました。
これまで、断片化されていた作品が、わたしの中で有機的なつながりを取り戻しつつあります。
『ナイン・ストーリーズ』から、『フラニーとゾーイー』、『大工よ、屋根の梁を高く上げよ/シーモア-序章-』までを少し整理してみます。
◇◇◇
<グラース家>
両親:レス(父)、ベシー(母)
子供:シーモア、バディ、ブーブー、ウォルト、ウェーカー、ゾーイー、フラニー
★1942年:シーモアとミュリエルの結婚(「大工よ、屋根の梁を高く上げよ」)
シーモア(25歳)...空軍の伍長
バディ(23歳)...陸軍に召集されたばかり
ブーブー(21歳)...婦人予備部隊の海軍少尉
ウォルト(19歳)...野砲部隊
ウェーカー(19歳)...良心的参戦拒否者の強制労働場
ゾーイー(13歳)、フラニー(8歳)...『これは神童』に出演中
→「大工よ、屋根の梁を高く上げよ」は、1955年にバディによって執筆された作品。
★1945年:ウォルトの事故死(「コネティカットのひょこひょこおじさん」)
ウォルト(22歳)...日本で軍務中に爆発事故。
→「コネティカット~」は、大学時代の恋人エロイーズによって、生前のウォルトのエピソードが語られる場面がある。時代的にはウォルトの死後、数年か。
★1948年:シーモアの自殺(「バナナフィッシュにうってつけの日」)
シーモア(31歳)...休暇を取ってミュリエルとフロリダに旅行滞在中自殺
→「バナナフィッシュ~」はバディが1940年代の末に執筆した作品。執筆時期はシーモア自殺から2か月しかたっておらず、バディはヨーロッパの戦場から帰還したばかりだった。
★「テディ」
→バディが執筆した作品。大西洋航路の船に乗っている天才的少年を描いている。
天才少年テディのモデルはシーモアでは?
★「小舟のほとりで」
母親ブーブーと息子ライオネルの生活が描かれる。
ブーブー(25歳)...4歳の息子をもつ主婦。夫もユダヤ人。
★1955年:「フラニー」「ゾーイー」
バディ(36歳)...大学講師をしながら作家業
ブーブー(34歳)...3児の母
ウェーカー(32歳)...ローマ・カトリックの司祭
ゾーイー(25歳)...新進俳優
フラニー(21歳)...大学生
→シーモアの没後約7年、ウォルトの没後約10年
「ゾーイー」の中のバディの手紙から分かること
→バディはシーモアの遺体をフロリダまで引き取りに行き、5時間びっしり飛行機の中で泣いていた。
→シーモアの自殺を怒っているのはゾーイーだけであり、そしてそれを本当に許しているのもゾーイーだけである。ゾーイー以外はみな、外面では怒らず、内面では許していない。
★1963年:「シーモア-序章-」
バディ(40歳)...大学講師をしながら作家業
ブーブー(38歳)...ウェストチェスターに住む財力のある中年の主婦
ウェーカー(36歳)...カルトゥジオ会の元海外伝道牧師兼通信員だったが現在蟄居中
ゾーイー(29歳)...俳優
フラニー(25歳)...新進女優
◇◇◇
興味深いのは、「バナナフィッシュ~」、「テディ」、「大工よ~」がバディが執筆し、出版された作品として「シーモア-序章-」に登場することです。
つまり、それらは物語内物語ということになります。
技巧的ですね。
読了日:2008年8月9日