2008/07/27

「炎のアンダルシア」(ヨーセフ・シャヒーン監督)

炎のアンダルシア [DVD]
炎のアンダルシア [DVD]
  • 発売元: 紀伊國屋書店
  • 発売日: 2003/10/25

ヨーセフ・シャヒーン監督「炎のアンダルシア」(1997年、原題 المصير)を観ました。
原題は、アラビア語で「運命」を意味する「アル・マスィール」。
エジプト映画界の巨匠ヨーセフ・シャヒーン監督の、壮大な歴史ロマンです。
カンヌ映画祭第50回記念特別賞を受賞し、「心のパルムドール」と賞賛されました。

舞台は12世紀、世界の文化の都アンダルシア。
ムワッヒド朝第3代カリフ、マンスールの権力転覆を企てる原理主義セクトの陰謀で、哲学者アヴェロエス(アラブ名イブン・ルシュド)の思想が焚処刑にされていきます。

  • アヴェロエスの本を救おうとする弟子たちの奮闘
  • アヴェロエスを敬愛する兄王子ナセルと、アヴェロエスの娘サルマの恋
  • 弟王子アブダッラーと酒場で働くサラの身分違いの恋
  • サラの姉マヌエラとその夫マルワーンの、アブダッラーを息子のように思う愛情
  • 原理主義者セクトと、それを背後で操る富豪のシェイフ・リヤードの大きな陰謀

このように複数の物語が同時に進行して、繁栄を享受していた時代のイスラーム社会の「イントレランス」(不寛容)を描き出しています。

◇◇◇

作品の中でアブダッラーは、原理主義セクトに洗脳され、人格が豹変します。
アブダッラーの豹変に悲しむサラでしたが、マヌエラとマルワーンは、アブダッラーに人間の心を取り戻そうと、励ますのです。

映画に登場する原理主義セクトは、明らかに現代のイスラム原理主義組織がモチーフとして表現されていますが、実際にムワッヒド朝にそのようなセクトが実在したわけではないようです。
シャヒーン監督は、歌や踊り、飲酒、化粧、男女が街中を一緒に出歩くことなどを厳しく取り締まり、ユダヤ教徒やアヴェロエスのような思想家を弾圧したマンスール治世のムワッヒド朝を、現在の宗教的過激主義と重ね合わせているのでしょう。

「思想には翼がある。その羽ばたきは誰にも止められない」というシャヒーン監督のメッセージは、イスラム原理主義だけではなく、人間の尊厳を奪うあらゆるイントレランスに対して、批判の眼差しを向けているのだと思います。
ここには限りなく普遍的な、シャヒーン監督のヒューマニズムがあるのです。



鑑賞日:2008年6月19日