- チェブラーシカ [DVD]
- 発売元: ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社
- 発売日: 2008/11/21
ロマン・カチャーノフ監督「チェブラーシカ」(1969年-1983年、原題 Чебурашка)を観ました。
チェブラーシカとワニのゲーナは、ロシア・アニメでもっとも人気のあるキャラクターのひとつです。
今年、三鷹の森ジブリ美術館ライブラリー提供作品として、再び劇場公開されることになりました。
チェブラーシカ・シリーズは、「ワニのゲーナ」(1969年)、「チェブラーシカ」(1971年)、「シャポクリャーク」(1974年)、「チェブラーシカ学校へ行く」(1983年)の全4話です。
もともと大好きな作品でしたので、たくさんの人に知ってもらえる機会ができて、うれしいです。
原作は、エドゥアルド・ウスペンスキーの童話です。
ロシアで出版されている絵本では、画家によってさまざまな絵柄がありますが、通常知られているチェブラーシカのイメージは、カチャーノフ監督のもとで美術監督を務めたレオニード・シュワルツマンのものでしょう。
日本でもキャラクター・グッズが販売されていますね。
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「シャポクリャーク」(1974年)の中で、工場廃水によって川の水が汚染されていることにゲーナが気づき、工場長に直接会いに行って抗議をするという場面が描かれています。
現代のわたしたちにとっては珍しくもない描写ですが、当時の状況を考えますと、実はとてもすごいことだと思います。
"母なるヴォルガ"は、スターリンが30年代に川沿いに産業コンビナート、ダム、運河をつくりはじめてから、自然破壊の限りを尽くされてきました。
かつてはいくらでもとれたチョウザメ(ロシア人の大好物であるキャビアのとれる魚)も、ほとんど姿を消したと言われています。
産業排水、特にアストラハンの巨大な化学コンビナートからの廃水が魚を殺し、ダムが上流の産卵場への道筋を断ち切ったためです。
1989年のはじめに、ヴォルガを守るための委員会がモスクワで設立され、農村派作家グループの指導者的存在であったワシリー・ベロフが委員長を務めました。
彼らは、ダム湖をなくし、汚染を減らし、チョウザメをよみがえらせることを求めました。
しかしこのような視点は、70年代後半における公式路線からはかけ離れていました。
当時は、『ソ連における自然破壊』という批判的な小冊子を書いたソ連政府の職員が、原稿をこっそり西ドイツに持ち出さなければならない時代だったのです。
そのため、70年代前半に子供向けアニメのなかで、環境汚染に対する批判が描かれていることに、今回あたらめて驚かされました。
チェルノブイリ原発事故をはじめ、アラル海の死、カザフスタンの原発からの有毒ガス放出、ポーランドやチェコスロヴァキア、東ドイツの深刻な大気汚染など、同様の恐ろしい環境破壊の事実は多くあります。
アニメでは、抗議を無視して廃水を垂れ流しにする工場を、ゲーナがその個性を活かしてこらしめますが、実際に80年代には東欧各国で、環境保護団体が抗議活動を行いました。
ハンガリーにおけるドナウ川のダム建設反対運動は、80年代半ばの東欧の歴史の流れを変え、スターリン体制の崩壊に道を開くうえで、決定的な役割を果たしたと言われています。
ブルガリアでは89年にエコグラースノスチが結成され、大気汚染や黒海の汚染に反対して大衆集会を開いて1000人以上を集め、9000を越える請願署名を獲得しました。
このためメンバーの40人以上が当局によって逮捕され、暴行を受けました。
東ドイツでは、80年代の後半にアルヒェ環境ネットワークなどのグループが慢性的なスモッグに対してキャンペーンを行いました。
スモッグがもっとも深刻だったビターフェルトとライプツィヒが抗議活動の中心となり、のちにドイツ統一の呼びかけもここからはじまりました。
東欧の人々が生活してこざるを得なかった劣悪な環境に対する反発が、80年代の東欧の"反乱"に火をつける役割を果たし、その後の政治的変動を引き起こした引き金のひとつとなったのでした。
鑑賞日;2008年6月25日