- 東京奇譚集 (新潮文庫)
- 発売元: 新潮社
- 発売日: 2007/11/28
村上春樹『東京奇譚集』(2007年)を読了しました。
桜井春也さんのおすすめで、手に取りました。
村上作品は、ほとんど読んだことがないです。高校時代に『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』を読んだ程度です。
『東京奇譚集』は、不思議な余韻を残す5つの短編が収められています。
「ハナレイ・ベイ」が特に良いです。
「彼女は現在という常に移行する時間性の中に座り込んで、波とサーファーたちによって単調にくり返される風景を、ただ機械的に目で追っていた。」という一節が、とても心に残りました。
プロットは平凡なのですが、全体的に文章表現がすばらしいと思いました。
サチは毎晩、88個の象牙色と黒の鍵盤の前に座り、おおむね自動的に指を動かす。そのあいだほかのことは何も考えない。ただ音の響きだけが意識を通り過ぎていく。こちら側の戸口から入ってきて、向こう側の戸口から出ていく。ピアノを弾いていないときには、秋の終わりに三週間ハナレイに滞在することを考える。打ち寄せる波の音と、アイアン・ツリーのそよぎのことを考える。貿易風に流される雲、大きく羽を広げて空を舞うアルバトロス。そしてそこで彼女を待っているはずのもののことを考える。彼女にとって今のところ、それ以外に思いめぐらすべきことはなにもない。ハナレイ・ベイ。
作品の終わりの8行です。
このきっぱりとして、ひんやりとした空気が大好きです。
読了日:2008年4月28日