- 戦争と平和 (2) (新潮文庫)
- 発売元: 新潮社
- スタジオ: 新潮社
- 価格: ¥ 860
- 発売日: 2005/12
★トルストイ「戦争と平和」(1)
トルストイ「戦争と平和」第2巻を読了しました。
面白すぎます。
第2巻は、主要登場人物のさまざまな人生の節目が繊細に描かれています。
最も印象的だったのは、従軍して死んだと思われいたアンドレイ公爵が、生きて帰ってきたと同時に、長男を出産して妻リーザが亡くなるエピソードです。
アンドレイ公爵戦死の知らせに、悲嘆する父ニコライ公爵と妹マリヤ。
二人は出産が間近に迫ったアンドレイ公爵の若妻リーザに、無事出産が終わるまで夫の死を隠していることにしました。
そして三月の吹雪の夜、リーザのお産が始まります。
「おや、嬢ちゃま、本通りをだれかの馬車が来るよ!」と窓枠をつかんで、そのまま閉めずに、乳母が言った。「角燈で照らしながら。きっと医者だね…」
「ああ、神さま! よかったわ!」と公爵令嬢マリヤは言った。「迎えにでなくちゃ、先生はロシア語をご存じないから」
公爵令嬢マリヤはショールで肩をつつんで、迎えに駆け出していった。ロビーを通ってゆくとき、玄関先に一台の箱馬車がとまり、いくつかの角燈が動いているのが、窓から見えた。彼女は玄関の階段の上に出た。欄干の柱の上に脂蝋燭が立てられて、炎が風にゆられていた。召使のフィリップが、もう一本の蝋燭を手に持って、びっくりした顔をして、下のほうの階段の踊り場に立っていた。そのもっと下の、階段の曲り角のかげに、防寒長靴らしい重い足音が聞こえた。そして聞きおぼえのあるような、マリヤはそんな気がしたのだが、声が何か言った。
「それはよかった!」とその声が言った。「で、お父さまは?」
つづいてまた声が何やら言って、デミヤンが何やら答えた、そして防寒長靴の足音がこちらからは見とおせぬ階段の曲り角へ、しだいに早さをましながら近づいてきた。
『あれはアンドレイだわ!』と公爵令嬢マリヤは思った。『いや、そんなはずはない、それではあんまり偶然すぎるもの』と彼女は考えた、そして思ったと同時に、召使が持って立っていた踊り場に、毛皮外套の襟に雪をつけたアンドレイ公爵の顔と姿があらわれた。たしかに、それは彼だった。しかし蒼白く、やつれて、すっかり面変わりしたその顔には、異様に柔和だが、しかし不安そうな表情があった。彼は階段をのぼりきると、妹を抱きしめた。
「ぼくの手紙がとどかなかったのか?」と彼はきいた、そして、返事を待たずに(もっとも、マリヤは口をきくことができなかったから、返事を聞けるはずはなかったのだが)、引返すと、彼のあとから玄関へはいってきた医者といっしょに(アンドレイ公爵は最後の駅で医者といっしょになったのだった)、急いでまた階段をのぼって、また改めて妹を抱きしめた。
「これが運命というものか!」と彼は言った。
(トルストイ『戦争と平和 2』工藤精一郎訳、新潮文庫)
アンドレイ公爵の劇的な帰還、そして同夜、妻リーザは息子の出産と引き換えに命を落とします。
この一連の流れに、すごく痺れました。
いつもは厳格な老公爵が、戦死したと思っていた愛息の無事を知り、「何も言わずに、しわだらけのかたい両手で万力のように息子の首を抱きしめ、子供のようにおいおい泣き出した」というのにも、じぃんとなりました。
読了日:第2巻 2008年6月7日
★トルストイ「戦争と平和」(3)
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